本日の小説~ 『道化師の笑顔とパパラッチ』

麻帆良学園都市の、ある一角。
木立を抜ける通りを歩く少女がいた。
彼女の肌は褐色であり、日本人ではないであろうことがわかる。
しかもその顔には、まるでサーカスの道化のようなメイクまでしてあった。
彼女の名は、Zazie・Rainiday(ザジ・レイニーディ)。
この麻帆良学園中等部、3-Aの生徒だ。
寡黙なこの少女は、クラスでもあまり目立たない。
まぁ、3-Aというクラス自体が、目立つ生徒ばかりというのもあるが。
しかし、顔のメイクは、単なる酔狂ではない。
彼女は曲芸手品部に所属しており、その手品の腕前は見事なものだ。
しかし、それを自分から披露するようなことは部活動以外ではほとんど無いため、結果としてあまり目立たない存在となっている。
だが、彼女はそんなことは気にせず、日々を過ごしている。
今日も彼女は、誰にも気兼ねすることなく、目的地に向かうつもりだった。
・・・・・だが。
「ふっふっふ、ザジめ、この前はアタシが痛い目見たけど、次はそうはいかないよ~・・・・・!」
そのザジをつけまわす・・・・いや、尾行するものがいた。
ザジを尾行しているのは、彼女と同じ3-Aの生徒、朝倉和美だ。
彼女は報道部に所属しており、いつもスクープを追い掛け回している。
そのため、ついたあだ名が「麻帆良パパラッチ」。
彼女はスクープ集めに熱心なあまり、度をすぎることもしばしばあり、自重すべきなのかもしれない。
だがそんなことはお構いなしに、今日も和美はスクープを狙ってクラスメイトを尾行しているのである。
以前和美は、ザジが母親が入院してしまった子供のために手品を見せているところを記事にしようとして、(どういう理屈かはわからないが)素っ裸になってしまったという苦い記憶がある。
しかもその姿をクラスメイトの那波千鶴がカメラに収めてしまったため、泣く泣くそのフィルムを処分したのだ。
しかし、今度はそんなヘマをしでかさないよう、細心の注意を払いつつザジを尾行している。
何せ麻帆良学園の部活動は、どれも企業と変わりないほど高いレベルを誇っており、報道部にいたっては、あまりにも記事にならない事象ばかり拾ってくる、もしくは記事になるようなものを見つけられない生徒はクビというシビアな部活であるため、和美も必死なのだ。
一応学校の部活動であるため、クビになるものが出ないよう配慮されているものの、和美としてはなんとしてもスクープをゲットして点数を稼ぎたいところなのだ。
「ふふふ・・・・悪く思わないでよザジ。私も背に腹は変えられないからね・・・・・」
ここ最近和美はスランプ気味で、あまり大きなスクープをつかめていない。
その焦りもあって、和美は一度つかみ損ねた「無口なピエロ、傷ついた子供を癒す」(あくまで和美がつけたタイトル)のスクープをつかもうとしているのだ。
一度目はザジに気付かれてまかれてしまい、そのせいでタイミングを逃したが、今回は気付いていない様子だ。
「うしし、いける!今回はいけるぞ~!!!」
早くも成功を確信しほくそ笑む和美。
その顔はまるでヒーロー物で登場する悪の幹部が悪巧みをしているときのようだ。
・・・・まぁ大差ないのかもしれないが。
そうこうしているうちに、ザジは木立を抜けて、角を曲がろうとしていた。
あわてて和美もあとを追う。
しかし・・・・・・・・
「あ、あれ?!ザジは・・・・・・・」
なんと、和美がザジのあとを追った先には、もうザジの姿はなかった。
まかれてしまったのだ。
一度目も気付かれていないと油断してまかれたが、まさか二度も同じヘマをするとは。
あまりの情けなさにため息をつきつつも、気を取り直して和美は歩みを進めだした。
「ふふん、前はどこに行くかわからなかったけど、今回はもう行き先はわかってるんだから、慌てることなんて無いのよ!」
自分で自分を納得させるため、ブツブツと独り言をつぶやきながら、和美は一度目にザジを発見した幼稚園へと向かう。
案の定、そこには子供に手品を披露するザジと、それを見て無邪気にはしゃぐ子供の姿があった。
少し離れたところでは、3-Aのクラスメイトであり、いつもこの幼稚園で保母さんの手伝いをしている那波千鶴がにこにこしながらその様子を眺めていた。
その近くに歩み寄ると、千鶴のほうが気付いて挨拶してきた。
「あら和美、また取材に来たの?」
「まぁね~、一度や二度の失敗でへこたれてらんないよ」
「あらあら、さすがねぇ」
そんな会話を交わしつつ、和美はザジと子供をカメラに収め続けていた。
子供のほうが嬉々としているのに比べ、ザジは相変わらずの無表情に見える。
しかし和美の報道者としての観察眼は、無表情を装うザジの表情が、わずかながらほころんでいることを見破っていた。
「くぅ~~~~!おっしいなぁ、もう少し笑ってくれれば高値で売れるのに・・・・・」
「あらあら和美、それはよくないんじゃなくて?」
「いやいや、売るのは冗談だけどさ、千鶴ももう少し笑ってくれればもっと絵になると思わない?」
「う~ん、それも一理あるわねぇ。だったらもう少し待ってみればいいんじゃないかしら」
「?」
千鶴のいうことの意味を読めず、首を傾げる和美。
すると千鶴は、和美の耳元でこうささやいた。
「・・・・・実はね、あの子のお母さん、今日退院したのよ・・・・・」
それを聞いた和美は、最初、それはめでたいくらいにしか考えていなかった。
「それでね、あの子『お姉ちゃんにも教えるんだ』って言ってたのよ」
そこまで聞いて、和美にもピンと来るものがあった。
「なるほど・・・・・そういうことね・・・・」
和美はそうつぶやいて不敵な笑みを浮かべたまま、ザジの手品がクライマックスに差し掛かるのを眺めていた。
そんなことは露とも知らず、ザジは最後の手品を子供に披露していた。
「じゃあ、これで最後・・・。私が合図したら、この花束が消えて別のものに変わるから・・・・・・・・」
「わぁ~~~、ホント?!見せて見せて~!!!」
眼をキラキラさせながらねだる子供をよそに、ザジは花束に仕掛けが無いことを確認させる。
子供のほうはやきもきしながらも、花束を触ってそれが普通の花束であることを確認した。
「じゃあいくね・・・・・、1・・・2・・・3・・・・・!」
ザジが合図した瞬間、ザジの手にあった花束が消え、ハトが空へ向かって飛び立っていった。
「うわぁぁぁ、すっご~~~~い!!!」
拍手喝采して喜ぶ子供に一礼して、ザジはその場を立ち去ろうとした。
「あ、待ってお姉ちゃん!」
慌てて呼び止める子供の声に、ザジは振り向いて子供のほうを見た。
すると子供は、駆け寄ってザジににっこり笑うと、うれしそうに母親が退院したことを告げた。
するとザジは、子供の目線の高さにしゃがむと、誰の眼にもわかるような笑顔でこう告げた。
「そう、よかったね・・・・・」
端から聞くとそっけなく聞こえるが、その言葉に込めた祝意は、ちゃんと子供に伝わったらしい。
「うん!ありがと、お姉ちゃん!!」
満面の笑顔で礼を言う子供。
その瞬間を、『麻帆良パパラッチ』朝倉和美が見逃すはずが無かった。
「やっほ~、ザジ!いいもの撮らせてもらったよ~」
「!?」
「あ、この間の裸のお姉ちゃんだ~」
「それはやめて~!!!」
過去の傷を容赦なく抉る子供に、和美は思わず大声をあげてしまう。
しかしザジは、このタイミングで和美が現れたことの理由が解せず、(ほとんど無表情ではあるが)困惑した面持ちで和美を見つめていた。
その視線に気付いた和美は、自分が撮ったザジと子供の笑顔を写した写真を麻帆良新聞に載せたい旨を告げた。
その瞬間、ザジはいつもの無表情がうそのように明らかに慌てた表情を浮かべた。
「・・・・そ、それはダメ・・・・・・!」
「え~、何で~~?一面間違いなしなのに~!」
そういって渋る和美だったが、ザジがうつむいて何かをつぶやいていることに気付いて顔を近づけた。
「・・・・・・ら・・・・」
「へ?何て?」
「・・・・・は、恥ずかしいから・・・・・」
それを聞いた途端、和美は悪いとは思いつつも、我慢できずに吹き出してしまった。
「・・・くっ、あはははははははは!!な、なるほどね~」
「え~、何々~?どうしたの~??」
いきなり笑い出した和美を不思議がって何事かと尋ねる子供と、顔を赤らめて和美をにらむザジ。
そこに千鶴が割って入ってこなければ、事態はどうなっていたかわからない。
「ほらほら和美、いくらなんでもそれは失礼よ?ザジもそんな怖い顔しないで、ね?」
千鶴が和美に注意し、ザジをなだめたおかげで、和美も笑うのをやめたし、ザジも表情を和らげた。
二人とも、千鶴が怒るとどれだけ怖いか知っているのだ。
その様子をきょとんとしながら見ていた子供に、千鶴はそろそろ帰るよう促す。
見れば、もう日がかなり傾いてしまっている。
「暗くなる前に帰らないと、折角帰ってきたおかあさんが心配しちゃうわよ?さぁ、そろそろ帰りましょうね」
「はーい!手品のお姉ちゃん、裸のお姉ちゃん、またねー!」
「だからその呼び方やめてー!!!」
和美は最後までそのことに突っ込みを入れていたが、みんな手を振って子供を見送っていた。
・・・・さて、子供の姿が見えなくなって。
改めて和美は、ザジに写真の掲載を頼み込んだ。
が、ザジはどうしても首を縦に振らなかった。
その様子は必死ともいえるもので、さすがの和美もついに折れた。
「・・・・はぁ~、そこまで言うなら仕方ない!この写真を記事にするのはやめとくよ」
「・・・・・・・!・・・・ほ、本当・・・・・?」
「ホントホント!心配ないって!!」
「あらあら、よかったわねザジ?」
心の底から安堵したような表情を浮かべるザジに、ついつい和美はカメラを向けてしまった。
何せザジが表情を露にするのは、本当に珍しいからだ。
しかし当のザジは、また記事にされるのではと、また無表情になってしまった。
「あ、だいじょぶだいじょぶ!これは単なる記念だからさ」
「・・・・・記念?」
「そ、ザジが珍しく可愛い顔した記念!」
冗談めかして言う和美だったが、ザジは顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。
言い過ぎたか、と和美が詫びようとすると、ザジの手元からハトが飛び立って、ひるんでいる間にザジは遠くまで走っていってしまった。
「あ、ちょっとザジ?!・・・・あ~あ、行っちゃったよ」
「あらあら、照れ屋さんねぇ」
そんなことを喋りつつ、二人はザジが走り去った寮のほうへと歩き出した。
数日後。
和美のアルバムには、現像されたザジと子供のツーショットが追加されたそうな。
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by laevateinn | 2006-04-25 18:55


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